ライヴレポート スラッシュ @ 新木場STUDIO COAST

RO69 2015.02 By Hirokazu Koike.

2015.02.10
スラッシュ @ 新木場STUDIO COAST

楽しくないわけがない。そんな思いで会場へと足を運び、むしろその先で何を見せてくれるのか、が気掛かりだった来日公演。スラッシュ名義で3作目となるアルバム『ワールド・オン・ファイアー』のツアーは、リリース前の昨年7月から北米でスタートして11~12月には欧州諸地域を巡り、2015年のスケジュールが2月9日の大阪・なんばHatchから再開された。そもそも、北米ラウンドが早い時期に幕を開けた理由のひとつに、エアロスミスとのジョイント・ツアー「Let Rock Rule」が並行して行われたことも挙げられるのだが、そんな最高峰のロック・スペクタクルによって火蓋が切られ、がっちりとこなれてきたバンドの現状なのである。セット・リストはサーヴィス精神満点で、高いスキルと衰え知らずの表現衝動が両輪と化した爆走を繰り広げてしまう。以下、レポート本文はネタバレを含むので、2月12日のTSUTAYA O-East公演を楽しみにしている方は、閲覧にご注意を。

この最新ツアーは、正確にはアルバム同様、スラッシュ・フィーチャリング・マイルズ・ケネディ&ザ・コンスピレーターズ名義によるもので、『アポカリプティック・ラヴ』以降お馴染みの、2013年オズフェストにも登場したバンドである。スラッシュ(G)、マイルズ・ケネディ(Vo)、トッド・カーンズ(Ba/Cho)、ブレント・フィッツ(Dr)、サポート・ギタリストとしてフランク・シドリス(G)が加わった5ピース。以前はマイルズもギターを携えていたが、彼のパーマネント・バンド=アルター・ブリッジの最新作『フォートレス』(2013)が本国UKで最高6位と好評を博し、ツアーも行っていたため、スラッシュのバンドではヴォーカルに専念したという経緯がある(昨年の一時期には両バンドのツアーが並行して行われていた)。逆に言えば、マイルズにタフな二足の草鞋を強いてでも、スラッシュがこのバンドの活動に拘り続けていることこそが、パフォーマンスの充実と熱量を裏付けていると言えるだろう。

開演時間定刻、あのシルクハットとチェック柄のシャツを纏い、8連マーシャル(幅広なステージのおよそ4割を占める配置)を背負ったスラッシュが大歓声を浴びる。ゴリッゴリのアンサンブルで“You’re a Lie”のイントロを放つと、最後にマイルズも姿を見せた。豪快でダイナミックな音像なのに、どこか余裕を伺わせる5人の佇まいが頼もしい。2曲目に早くもガンズ&ローゼズ“Nightrain”を叩き付けて狂騒を巻き起こし、マイルズはレザー・ジャケットを脱ぎ捨ててタンクトップ一枚になってしまう。彼のクリーンで張りと艶に満ちた歌声はアクセル・ローズとはまるで別物だが、《ワン・モア・タイム・トゥナ~イャィ~♪》という節回しをちょっとだけ真似た感じだ。スラッシュによるイントロのリフが響き渡ったときにはもちろん痺れたが、それ以上に終盤の、スリリングな昂りを描き出しながら決してトーンを外さない、スラッシュらしいプレイにこそ興奮させられた。

フロアの熱狂ぶりを見渡しながら「調子はどうだいトーキョー。俺たちは、つい昨日もプレイしたばかりなんだよ」と楽しそうに語るのはマイルズだ。密に詰まったサウンドがバンドの充実感を裏付けるように響き渡り、盛大なコールを巻き起こすパートが巧みに仕込まれた“Dirty Girl”や、赤いレスポールに持ち替えたスラッシュとフランクによるギターのコントラストが鮮やかな“Stone Blind”といったふうに、新作曲も過去曲に負けず劣らずの熱狂を育んでいる。スラッシュがフラメンコ風ソロもばっちり決める“Double Talkin’ Jive”、そしてワウを効かせたリフが繰り出される“You Could Be Mine”という連打は、誰が何と言おうと『ユーズ・ユア・イリュージョンI』『II』の自由奔放な多様性を愛してやまない筆者のようなリスナーにとって、たまらない時間帯になった。

ソロ・デビュー作でモーターヘッドのレミーが歌った“Doctor Alibi”や、ガンズの“You’re Crazy”では、ベーシストのトッドもノリノリでリード・ヴォーカルを担ってみせる。バンドとしてパフォーマンスを楽しみ尽くそうとする姿勢が伺える一幕だった。そしてこの後には新作曲が連なり、エモーショナルなメロディを軸にした作曲が際立つ“The Dissident”や、ダーティな重量級グルーヴでまたもや歌声を誘う“Beneath the Savage Sun”が披露される。新作曲の合間には“Rocket Queen”もプレイされたが、こんなふうに昔の曲でもまだまだ遊べるぜ、と言わんばかりの、スラッシュによる長尺ソロがまた素晴らしかった。少なくともスラッシュのプレイにおいては、いわゆる懐メロとしてのしみじみとした感慨を追い抜いてしまうほど、生々しく、リアルな表現になってしまうのである。

ダブルネックのギターを用いてフォーキーなリフレインと尖ったサウンドを弾き分ける“Anastasia”を経ると、クリーン・トーンのフレーズがフロアの隅々にまで行き渡ってひときわ大きな歓声を誘う“Sweet Child O’ Mine”だ。ナイス・ガイのマイルズは、コーラス・パートをたっぷりとオーディエンスに預ける。そしてフランク、トッド、ブレントを順繰りにコールすると、あらためて喝采を誘いながら、アンプの脇に隠れていたスラッシュの名を呼ぶのだった。最後にスラッシュはマイルズと肩を組んで彼の名をコールし、本編ラストはヴェルヴェット・リヴォルヴァーのセカンド・シングル“Slither”である。過剰な情緒を引き摺ることなく、ただし熱を損なうこともなしに、歯切れ良いロック・ナンバーで締め括るさまが何ともかっこ良かった。

アンコールは“Paradise City”だ。他でもないマイルズ自身の高らかなコーラスによって、楽曲の力を引き出そうとするヴォーカル・パフォーマンスは、ガンズ曲の中ではこの曲が最も光っていたのではないだろうか。レコード史が始まる以前から、歌は優れた音楽を語り継ぐための、最も手っ取り早いツールだった。そんなことを考えさせられてしまう熱演だ。最後にギターを弾き倒してフィニッシュしたスラッシュの放るピックが、本当に遠くまで良く飛ぶ。「奇麗だなトーキョー。またすぐ会おうぜ!」と、言葉はシンプルだが、この上ないロックの興奮を置いていったスラッシュであった。O-East公演に参加予定であるにも関わらず、ここまで読んでしまったという方には、新作曲をしっかりと覚えて臨むことをおすすめしたい。それだけで、今ツアーの楽しさは2倍に膨らむはずだ。(小池宏和)

[SET LIST]
1. You’re a Lie
2. Nightrain
3. Halo
4. Dirty Girl
5. Back from Cali
6. Stone Blind
7. Ghost
8. Double Talkin' Jive
9. You Could Be Mine
10. Doctor Alibi
11. You're Crazy
12. The Dissident
13. Beneath the Savage Sun
14. Rocket Queen
15. Battleground
16. World on Fire
17. Anastasia
18. Sweet Child O' Mine
19. Slither
En1. Paradise City